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【新春鼎談】デジタル技術で 未来に繋ぐふるさと

スマートシティ化を推進する 富 山 市

ゲームに着目してまちづくり 魚 津 市      

 

日本は2011年以降、人口が減少へと転じ、富山県は全国より早く少子高齢化、人口規模の縮小が進んでいる。一方、近年のICT技術のめざましい進歩は、様々な分野でデジタルトランスフォーメーション(DX)による革新を促し、都市経営においても行政サービスの向上や地域課題の解決に向け、デジタル技術を活用する「スマートシティ」が注目されている。

「スマートシティ政策」に取り組む、富山市の藤井裕久市長と、魚津市の村椿晃市長に、国内外で地域課題解決型プロジェクトを手がけているイーソリューションズ(東京)の佐々木経世社長が加わった鼎談から、両市の未来に向けたまちづくりに迫る。

 

◇ コンパクトシティの成果

佐々木 日本は、人口減少と高齢化社会という課題に直面しています。富山市の「コンパクトシティ政策」は全国から注目されていますが、まずはこの背景を教えてください。

藤井 高度経済成長期以降、戸建て指向の強い県民性と自動車の普及により、都市が郊外に向かってどんどん広がっていきました。その結果、過度に自動車に依存した生活が当たり前になり、道路の維持をはじめとする都市コストが増大する一方、公共交通網が衰退し、CO2排出量の増大も問題になってきました。

 日本の人口が減少局面に向かう中で、都市の総合力を高めて選ばれるまちとなるために富山市では、改めて公共交通網の利点を見直し、公共交通を利用しやすい地域に居住を誘導する拠点集中型のまちづくりを軸とした「コンパクトシティ政策」を打ち出しました。市内電車の環状線化や再開発を含む中心市街地の整備、

JR高山本線婦中鵜坂駅の新設、あいの風とやま鉄道東富山駅東口の駅前広場整備をはじめ、鉄軌道、路線バスの利便性を高める政策を約20年にわたって複合的に進めてきました。

 中でも2020年に、富山駅で分断されていた路面電車の南北接続の実現は、コンパクトシティ政策の大きな到達点だと思っています。これにより、富山駅の南北をまたぐ利用者は平日で約2・4倍、休日で2・8倍に増加しました。富山市への転入者の増加が続いており、地価も上昇し、固定資産税や都市計画税の税収増につながっています。

 

◇ ゲーム産業を育て働く場づくり

佐々木 魚津市はゲームによるまちの活性化を打ち出していますが、ねらいは何でしょうか。

村椿     魚津市はものづくりが盛んで、全国、世界から注目される高い技術力の企業がたくさんあります。ところが、大きく成長して魚津から羽ばたいていった企業も多い。地形的に海と山が近く、ダイナミックな自然環境のすばらしいまちなのですが、一方で工場を拡大しようとすると、広大な土地がありません。

 少子高齢化に追い打ちをかけて若い人の流出も進む。すると地域のマンパワーが落ちるんです。例えば小学生の登校時に見守ってくれる地域の人、おじいちゃんが多いのですが、毎年その平均年齢が1歳ずつ上がっていますし、大雪のときには除雪ができずに、玄関前に雪が残っている家も増えてきています。

 まず、若い人の働く場所をつくるべきと考え、「ゲーム産業の育成」を中心として若者が活躍できるまちづくり「つくるUOZUプロジェクト」を2017年から進めています。ゲームは若い人の関心が高く、地方でも、広い土地がなくても作ることができるのもあるのですが、もう一つねらいがあります。

 ゲーム産業にはデザイナーやイラストレーター、文章を考える作家など色々な人が関わり、何より0から1を生み出す仕事です。そうした多彩な分野の人たちの新しい発想力、企画力が、魚津のまちづくりや既存の企業にも生かせるのではないかと期待しているのです。

 

データに基づく実行力ある政策を実現

佐々木 私はヨーロッパの地方自治の事例なども見ているのですが、これからは、政策を検証しながら多角的に展開するためにも、データが重要になってくると思います。

 富山市では、富山経済同友会、富山大学と組んで、スマートシティの実証が始まっていますが、このスタートに当たっては、ヨーロッパをはじめ世界中の都市で使われている、様々なデータを共有するためのスマートシティの基盤ソフト「FIWARE(ファイウェア)」を紹介させてもらいました。

 ファイウェアを使った社会サービスが出始めていたヨーロッパを、2019年に富山市や同友会の皆さんと一緒に見に行きました。その時、ヨーロッパでたくさんの発見がありましたが、同時に「富山にも色々ないいことがあるよね、こうすればいいんじゃないか」と始まった富山市の取り組みは「富山モデル」として、「スマートシティはこんなことができるのか」と注目されています。現在、ファイウェアを日本のデジタル化の基盤にしようという流れになっていて、これがもっと広がればいいと思っています。

 

◇ センサーネットワーク網を活用

藤井 富山市では居住地域のほぼ全域をカバーするセンサー通信網「センサーネットワーク」を整備し、様々なデータを収集できるようにして、消雪装置の稼働状況や公共施設の監視などを簡単に行えるようにしました。ここで大きいことは、ファイウェアの導入により、コンパクトシティ政策で蓄積されたこれまでのデータも組み合わせることができ、また、そうしたデータをオープンにして共有できることです。

 個人データの取り扱いには配慮しなければいけませんが、役所や大学が抱え込むのではなく、民間にオープンにして活用してもらい、知恵を借りることが大事です。

 例えば児童の見守りだと、通学時は集団登校を実施していますが、学校帰りに塾に行ったり、おじいちゃんの家に行ったり、学童保育があったりとバラバラになる。これをGPSの位置情報で把握し、学校や警察などと共有して、交通安全やパトロールに生かせないかと実証していて、近く市内の全小学校に展開する予定です。民間でも交通量や気象データなどを活用して、移動支援サービスの開発や、橋梁の異常検知システムなど、3年間で61の事業が実施されています。

 

◇ デジタルの力で希望ある未来へ

村椿 魚津市では2021年度から始まった第5次総合計画の策定に当たり、計画の中に「スマートシティ」という言葉を初めて入れました。それから「未来戦略室」を作って、まさに何をするかというところから、職員には本当に頑張ってもらっています。佐々木社長に市政アドバイザーになってもらい、「魚津モデルスマートシティ構築推進協議会」を立ち上げ、先行する富山市をモデルにしながらスタートしたところです。

 「スマートシティって何?」って、遠い未来やSFの世界のように聞か

れるのですが、マンパワーが落ちていく中で、デジタル技術を活用して今の安心・安全な生活をどうやって維持するかということです。「高齢化だ、人口が減る」と悲観的なことばかり考えるのではなく、色々な人と話し合いながら、「こんな希望が持てますよ」という明るい未来を組み立てて示していきたいと思っています。

藤井 私も昨年4月の市長就任直後から、スマートシティ推進のためのビジョンづくりに着手しました。コンパクトシティ政策は地価の上昇や転入者の増加をもたらし、確かな成果が見えています。一方で、2005年に1市4町2村が合併した広い富山市ですので、公共交通の利便性が改善されていない郊外や中山間地も多く、過疎化も進んでいます。コンパクトシティをベースにしてさらに深化させ、この果実を地域全体に環流し、均衡ある発展を目指します。

 そのためにデジタル技術が有効ですが、それはあくまで道具で、一番大切なのは地域の人の声です。これまで市内各地に出向いてワークショップを開き、市民の皆様の困りごとや希望などをお聞きし、この程、ビジョンを策定したところです。

佐々木 デジタル技術を活用するとデータに基づいた施策、EBPM(証拠に基づく政策立案)が実行できるので説得力があります。そして、それをオープンにしたり、リアルタイムに活用したりと色々な展開方法も考えられます。

 富山でできたソリューションは、共通の課題を抱える地域で役立ちますし、ビジネスモデルとしてもとてもいい。もう一つ良いことは、こうしたデータを扱うデータサイエンティストは給与水準が高いんです。さらに海外だともっと高い。そして東京にいなくても、富山でもどこでもできるのです。米も魚も酒も美味い富山県にデータサイエンスの人材が集まって、ゲーム関連の若者も集まってくると面白いですよね。

村椿 地域の共通課題でいうと、大雪の時の除雪作業の混乱などは魚津市だけの問題ではないので、近隣の市・町と課題の話し合いを行っています。デジタル技術で共有して解決していければいいと思っています。また、集めたデータや情報をデザインできる人材が必要になってくるので、魚津市でもデータサイエンティストの養成に力を入れていきます。

藤井 県では市町村の連携を強化させようと「ワンチームとやま連携推進本部会議」が開かれています。15市町村の首長もメンバーに入り、共通の課題をICTの力で何とかならないか、農産物の輸出促進を図れないかなどと話し合っていますが、除雪やサルなど鳥獣被害のシステムなどは、どの地域でも活用できますよね。

 

スマートシティで持続可能な社会へ

カーボンニュートラルの実現も

佐々木 これまでのお話は、どこに住んでいても、安心・安全に、幸せに暮らせるようにと、まさにSDGs、持続可能なまちづくりです。SDGs、そしてカーボンニュートラルの観点からも、スマートシティ政策の展望をお聞かせください。

村椿 環境省の事業で、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた調査事業を今年度、実施しています。山と海が近い地理的条件を生かし、農業用水などを活用した小水力発電を展開したり、将来的には森林の樹木によるCO2の吸収「グリーンカーボン」、海草によるCO2の吸収「ブルーカーボン」の可能性も探っていきたいと思っています。

藤井 富山市でも2021年3月に「富山市エネルギービジョン」を発表し、2050年のカーボンニュートラル実現の道筋を示しました。太陽光発電や小水力発電、森林資源を生かしたペレットボイラーやストーブの展開を考えていますが、同時に自立分散型エネルギーシステムの構築も目指します。電力会社やガス会社とタイアップして、災害などの緊急時に、小さなエリア内で太陽光や小水力発電、蓄熱や蓄電でエネルギーをまかなうような仕組みを構築したいと思っています。

 2018年に「SDGs未来都市」に選定されて以降、SDGsを合い言葉に企業や学校、町内会などとも連携し、環境、経済、健康づくりなどで持続可能な社会の実現に取り組んで来ました。今年はG7の教育大臣会合が金沢市と共同で開催されますので、小学校で取り組んでいるSDGs教育も発信していきたいと考えています。

佐々木 カーボンニュートラルの一番のポイントは、成長戦略と一体でなければいけないということです。小水力発電ではITを使って発電機の稼働状況を監視するとともに、実際に水回りをみている農業の人の副収入になるように展開したら面白いだろうなと思っています。

 また、森林資源の活用でいうと、オーストリアの外れのギュッシングという小さい町の事例があります。もともとの林業が衰退して、最貧の町と言われるようになった人口4千人程度の町が、1990年代にバイオマス発電を始めました。余剰電力を市外に売ることで15億円の売電ができるようになり、安い電力と森林資源を背景にフローリング工場や家具メーカーの誘致に成功し、木材加工や設計などの関連会社を含め60社が来て、約千100人の雇用が生まれました。さらにヨーロッパ中から視察や観光に年間3万人が訪れるようになり、ホテルやレストランができて、税収が4・4倍になりました。

 木を切ったら植えるという循環をしているので、洪水にならない。こういう話は子供の時に聞くといいんですよね。それで、データサイエンスの部分はこれから儲かるよって話も言ってあげて。

村椿 「木もく育教育」ですね。

佐々木 話は尽きませんが、最後にふるさとを新しい時代につなげていく思いをお願いします。

藤井 市長に立候補したときの公約でもあるのですが、一番は「人づくり」です。立山連峰、日本海があって、田園地帯がある。こうした豊かな風土を守り、将来に伝えていくために、デジタル人材も含めて、教育、人づくりに力を入れていきたいと思っています。

村椿 スマートシティは、安心と希望に繋がる取り組みです。技術を利用しながら、自然と文化を支える人が育つまちづくりをしっかり進めていきたいと思います。

佐々木 私の出身地である富山県内の各地でスマートシティの取り組みが実を結び、富山県、全国、世界のモデルとなるよう期待しています。ありがとうございました。 (月刊富山県人 2023年1月号)

 

富山市長

藤井 裕久 氏

1962年富山市(旧婦中町)生まれ。富山東高校、工学院大学工学部卒。富山青年会議所理事長、富山市PTA連絡協議会会長などを務め、2011年4月富山県議会議員に初当選し、3期10年務めた。㈱藤井産業代表取締役会長、上婦負ケーブルテレビ㈱代表取締役社長、富山県商工会連合会副会長なども歴任。2021年4月の富山市長選で初当選し、現在1期目。

 

魚津市長

村椿  晃 氏

1957年黒部市生まれ。富山高校、東北大学法学部卒。1980年富山県庁へ入庁。農林水産公社事務局長、地域振興課長、広報課長などを経て、生活環境文化部次長として高志の国文学館開館に当たり副館長を務め、県立中央病院事務局長、生活環境文化部長などを歴任。2016年県庁を退職し、同4月の魚津市長選で初当選し、現在2期目。

 

イーソリューションズ株式会社

代表取締役社長 佐々木 経世 氏

1957年、黒部市(旧宇奈月町)生まれ。魚津高校、慶應義塾大学工学部、同大学院修士修了。日本鋼管㈱、ソフトバンク㈱などを経て、1999年イーソリューションズ㈱を設立。内閣府東日本大震災復興構想会議検討部会専門委員。現在、慶應義塾大学医学部客員教授、富山大学産学官連携シニアアドバイザー、札幌市や魚津市の市政アドバイザーを歴任。