日本初の国産接着剤生みの親
(富山県人2024年8月号)
誰もが知る接着剤の「セメダイン」が誕生してから100年が経った。
生み出したのは、高岡市(掛開發村)出身の今村善次郎氏(1890~1971)。日本が西洋に追いつけ追い越せと近代化を進める時代に、舶来物よりも良いものを作ろうと研究に没頭して作り上げ、国産初の接着剤を世の中へ行き渡らせた人物である。
農家の二男に生まれた今村氏は1907(明治40)年に上京し、働きながら中学を卒業。行商で扱う商品の中には輸入物の靴墨や接着剤があった。「形あるもののある限り、これを補修する接着剤の需要は無限である」と、その将来性に目を付け、1919(大正8)年、自宅の一室で研究を始めた。1923(大正12)年の関東大震災で被災したものの、同年11月、4年がかりの研究が実を結び、製造・販売を始めた。商品名「セメダイン」は、結合材のセメントと、力の単位ダインからとって名付け、舶来物を攻め、、出す闘志も込めたというから、その意気込みが伝わる。
セメダインの歩み
今村氏は、積極的な博覧会への出店やデパートでの実演販売、マスコミを活用した宣伝などを展開して「セメダイン」を広めると同時に、製品の性能向上に改良を重ねた。
そして、化学原料を用いた「セメダインC」を1938(昭和13)年に発売。輸入品を含む従来品の水に弱い弱点を克服し、速乾性に優れ、無色透明で美しい仕上がりを実現させた。模型飛行機などの時代のブームにも乗って国内に行き渡り、今に至るロングセラーとなっている。まさに日本の接着剤の代名詞となるパイオニアで、「セメダインC」は「日本初の合成接着剤」として2013(平成25)年、国立科学博物館の重要科学技術史資料(未来技術遺産)に登録されている。
さらに1940(昭和15)年には工業用のゴム系の接着剤「セメテックスB」を開発。戦後は日本経済の進展に合わせて、自動車、航空機、電子部品、建築現場、土木工事など、用途に応じた多種多様な製品を生み出し続け、今村氏が創業時に抱いた「接着剤の需要は無限」と広がっている。
1987(昭和62)年には、「強い接着から剥がれない接着へ」というコンセプトで、従来にない概念の「弾性接着剤」を市場投入。建設現場に普及し、新たなJIS規格に盛り込まれるようになった。
今村商店から始まった会社は1941(昭和16)年に接着剤に特化した⑰今村化学研究所となり、1948(昭和23)年株式会社化。1951(昭和26)年に立ち上げた販売会社・セメダイン⑭を吸収合併して1956(昭和31)年、セメダイン⑭と改称。現在は東南アジア、中国、北米に製造拠点を構え、世界中のものづくりを支えている。
新たな「つける」価値創造
創業100周年の2023年に記念サイトを立ち上げ、100年の歩みと逸話、創業者精神、アイデア満載の商品、世界で愛用される商品などを伝えるホームページができている。
これからのセメダイン⑭は創業者今村善次郎氏の、信念を貫き研究に没頭した不屈の精神、斬新なアイデアで販路を拡大した柔軟な発想、そして、社会貢献できる製品に注力し、無駄を省いて資源を有効に使う堅実な姿勢を受け継ぎながら、「つけるが、価値」のミッションを実現するため、「モノとモノ、コトとコト、ヒトとヒトをくっつけて、テクノロジーの進歩や豊かな社会の実現につなげる」ビジョンをかかげ、大きく変革する未来へ向け、新たな「つける」価値を創造し、世の中の課題解決に挑み続けていく。
代表的ヒット商品をピックアップ
「セメダインC」国産初の合成接着剤で、工作用のロングセラー。黄色のチューブに商品名を赤字で記す。
「POSシール」建築用のシーリング材。世界初の1成分形変成シリコーンによる製品化を実現。
「スーパーX」世界初の粘接着剤。水、熱、衝撃にも強い接着を実現。用途も広く、世界で愛されている。